リブリーザー(Rebreather)
ガスを再循環させることによる新しい形
テクニカルダイビングではガスを大量に必要とする。タンクを複数本必要な分だけ持っていく必要が出てくるが これを効率化するためガスを再循環させる構成をとり、結果的に泡の出ないサイレントなダイビングが可能になった。
リブリーザー
リブリーザーとは、読んで字のごとく、"Re-Breath" つまり、再呼吸装置のことを指す。 人は呼吸ガスのうち、本当に必要なガス(代謝するもの)は酸素であり、空気中に含まれる窒素そのほかのガスは 消費はされない。しかも酸素は一呼吸ですべて使われるわけではなく、オープンサーキットではすべて一呼吸で まだある酸素ごと捨てているのである。これを循環させ、足りなくなった酸素だけを何らかの形で追加し 代謝しない不活性ガスはずっとループを回り続けることで、ガスの省エネを図る。 ガスの出ないことのメリットは、必要ガス容量の削減にとどまらず、泡が出ないことからの生物への警戒心を解き、 撮影時に魚などが逃げない、本来の水中の静寂を感じることができる、ペネトレーション時に吐いた泡が 天井や障害物に当たり濁らせる現象、パーコレーションを防ぐ、他、循環ガスにより湿度のあるガスを呼吸し続ける ことからの体への負担も軽減される。
Hybrid rEvoⅢ & SF2 Sidemount
カウンターラング
リブリーザーとオープンサーキットの大きな装備の違いとしてあるのは、カウンターラングが存在することである。 カウンターラングは、吐いた息をため込んで再び肺に戻すための袋でリブリーザーの重要なパーツであり、 敗れなどの水没時は、重大なトラブルを引き起こすことになる。 呼吸抵抗の問題から肺の近くに設置することが望ましく、現状メインとしては胸の前であったが、 ペネトレーションなどを行う際、ここをする可能性などがある事から、バックマウント・カウンターラング が以後第二の勢力として出てきている。 また、現在、サイドマウントリブリーザーという新たな形において、ユニット内にカウンターラングを モノ・カウンターラングとして設置するユニットも出てきている。
ガスの再利用方法 CCR / SCR
人間は呼吸ガスに通常空気(酸素21%, 窒素78%, その他1%) のガスを吸気するがこの時消費するのは酸素だけでありそれも21%分のうち1/3 ぐらいしか使用しない。
よって、これを捨てずに再利用することでガスの省エネを実現する。
再利用の際、呼吸により発生する二酸化炭素(CO2)を吸着材に濾過させることにより除去、そして消費された酸素を追加していくというものがリブリーザーというものである。
酸素レベルの維持の方法としては以下の二通りの方法がある。
・SCR (Semi-Closed Circuit Rebreatehr, 半閉鎖式リブリーザー)
・CCR (Closed Circuit Rebreatehr, 全閉鎖式リブリーザー)
SCR は一定量のナイトロックスなどのガスを吹き込み、ループガスを排出することにより定期的な
ループガスのリフレッシュを行うことで、酸素濃度レベルを一定量キープする方法を取る。一定量排出することから半閉鎖と呼ばれる。
対してCCR は消費された酸素のみを添加し、ループガスの排出は行わない、完全閉鎖回路をループとする。
吸気したガスは全て排気する通常のOC(Open Circuit)ダイビングに比べ同一深度で使用する必要ガス量を少なくすることができる。
深度が深くなれば深くなるほど、その差は開く。
CCRについてはコンスタントPO2(一定酸素分圧キープ)することにより、各深度でのベストミックスを呼吸する事により減圧時間を短縮でき、結果深度によって極端に残圧が減る事は無く、時間管理として計算できる。
ただし、リーク(漏れ)の場合は持っているタンクの容量が小さいためそれ相応の工夫した対応が必要となる。
最終手段として、緊急浮上用のオープンサーキットタンク(ベイルアウトタンク)を使用することも考えると、
最低限このベイルアウトタンクは最大深度から安全に浮上できるだけのガスを持っていなければならないことになる。
その辺りの手順、方法論を身に付けていく事は、リブリーザーダイバーの必要な事項であり、頭を使うところでもある。
Silent Diving - 静かなダイビング
排気が無いため、OCのようなブクブク泡は出ない。ただしSCRはOCほどではないが少量の排気は行われる。
このため、潜水中は本来の海の静けさを堪能する事ができる。
そして、魚などの水中動物も逃げない。群れと同化する事さえ可能だ。
生物のダメージも最小限にとどめ、ペネトレーション(進入ダイビング)時もパーコレーションを防ぐ事もできる。
呼吸ガスループ内は空洞となっているため、会話も明瞭に聞こえたりもする。
音の世界をとっても異次元感覚は味わえるだろう。
Semi-Closed Circuit Rebreather(SCR, SCCR)
半閉鎖式リブリーザーを指し定量のガスを常に供給/排気する形で、呼吸ガスをループさせることにより
呼吸ガスを保持する方式を取る。
CCRに比べてガス効率は悪いが、コンスタントPO2をキープするための電子回路制御などのような複雑な構造はとらず、トラブルも複雑ではない事が利点となる。
ただし、リフレッシュ分の一定量のガスの排気はある。完全閉鎖と呼ばれず半閉鎖と言われるゆえんである。
ガスを強制的に注入、排出する Active Typeと、ガス消費の不足要求によりガスが供給されるPassive Typeとが存在する。
1ガスによるダイブタイムの延長が目的のセミクローズドリブリーザー(Drager Ray/Dolphin, Kiss GEM, Hollis Explore)が多く、この場合は40mを超えるような深度には適さないが、複数のミックスガスを使用しての減圧ダイブもガスコネクションによるループガスの変更、選択により40mを超える深度、および潜水時間延長が実現可能であり、減圧時間に関してはCCRほどの効率は望めないがOCと同等のTrimix, Nitoroxなどの加速減圧も可能なモデルも存在する。(Halcyon RB80, SF1など...)
なお、Hollis Exploreは、ソレノイドバルブ(電磁バルブ)によりPO2(酸素分圧)が規定より下がった時に供給されるという、E-SCRという新しいカテゴリーを生んだ。
CCR (Closed Circuit Rebreather)
完全閉鎖式リブリーザで、一度呼吸した後の排気ガスをそのまま再利用する形を取り、基本的に浮力調整時やフラッシング(ガス換気)時以外は排気を行わない。
手動、もしくは自動制御にてコンスタントPO2(酸素分圧固定)方式を取ることにより減圧時間の短縮を図る、というメリットもある。
基本的に純酸素(Oxgen)と希釈ガス(Dulent)のガスの2種類を搭載し、これを混ぜ合わせる構造となっている。
自動制御は、オリフィスなどの定量ガスの吹き込みなど機械式のm-CCR, 酸素センサーの電圧コントロールによるソレノイド(電磁)バルブでの酸素供給を行う、e-CCRおよび、これらのHybridなどが存在する。
希釈ガスをGCS(ガスコネクションシステム)により切り替えることで、Trimixによる深深度 Divingも可能になる。
主な機種:Inspiration, Evolution, Megalodon, Ouroboros, Sentinel, JJ-CCR, rEvo
ベイルアウト
リブリーザは呼吸ガスを外に出さず給排気をユニット内で完結させるものである。
なので、ユニット内の水没は基本的にタブーである。といってもちょっとぐらいの浸水には耐えられる構造を取ってはいるが...
ガスも必要量からしてタンクを小型化しているためリークなどにもシビア。
電子制御タイプのコンスタントPO2を仕様とするリブリーザはその部分やバッテリー部などの水没はユニットの誤作動、停止などの自体を招く。
また、二酸化炭素吸着剤の部分に浸水した場合、これが溶解してアルカリ性の溶液がユニット内を流れるという、危険な状態も起こりえる。
完全にCCRユニットが使えなくなった場合の予備としてOC(タンクにレギュレータをセットしたもの)をベイルアウトタンクとして常備する必要がある
戻りの部分だけでいいが、万が一のための備えだ。最終手段として、このベイルアウトタンクを使用する。
もちろん、何事も無ければ、このベイルアウトガスは使用しないことにはなるが...
これをもたないことは、最終手段を持たずに...という事である。
どうやって始めるか? - カリキュラム -
リブリーザーには賛否両論で指導団体に拠ってはその危険性からリブリーザを否定しているテクニカルダイビング指導団体も存在する。
そして、ユニット(製品)毎に使用方法が異なるためそれぞれのユニットごとにコースが開催される。
もちろん、他機種に切り替えたい場合はクロスオーバーは可能である。(CCR同士の場合)
リブリーザーのコースを開催している団体ではIANTD, TDIが有名であるが更にリブリーザー専門の指導団体 IART も発足している。
完全閉鎖式のフルCCR のコースには
IANTD | TDI | IART | 説明 | |
---|---|---|---|---|
CCR | AirDiluent CCR | Mod Ⅰ | 希釈ガスに空気を用い, 減圧不要限界内ダイビング | |
Normoxic Trimix CCR | Mixed Gas Diluent CCR | Mod Ⅱ | 希釈ガスに空気相当の酸素濃度を持つTrimxを用い, 減圧ダイビング | |
Trimix CCR | Advanced Mixed Gas Diluent CCR | Mod Ⅲ | 希釈ガスに低酸素濃度Trimixを用い, 減圧ダイビング |
いずれにせよ、まずデュレントガスにAir を使ったコース、陸上で呼吸可能なNormoxic Trimix をデュレントに使用したコース、 および、深深度を可能とするために、陸上では呼吸不可能なHyposic Trimixガスにデュレントを切り替えて潜るコース の3段階になる。
セミクローズドの場合は、テクニカルとレクリエーショナルでその様相は異なる。
用語集
カウンターラング | counter lung | リブリーザーにおいて吐いた呼気をためておく袋。"対する肺"という訳 |
ブリージングバッグ | breathing bag | カウンターラングと同意に使うこともある。カウンターラングの中袋のことを指す場合もある |
ベイルアウト | Bail out | リブリーザーがダウンしたときに予備の呼吸源としてオープンサーキットに切り替えることを言う。 |
CVF | Constant Valume Flow | レギュレーターにおいて、オリフィス(小さな狭められた穴、隙間)を通るときにその体積流量は 一定になるという物理法則をいう。 |
CMF | Constant Mass Flow | 酸素供給を行うリブリーザーにおいて、深度が高くなる毎に高圧になるため定体積流量に対して 圧力を一定にすることにより低湿流量を実現する方法を言う。 |
定酸素分圧 | Constant PO2 | 酸素分圧を一定に保つこと。CCRはこれをキープするように酸素分圧を制御するように動作する。 |
キャニスター | Canister PO2 | 呼吸により増加したCO2をろ過する吸着剤をつめておく筒。 |
ソフノライム | Sofnolime | CO2を吸着剤する白い粉。二酸化炭素通過時に化学変化を起こし水と炭素に変化し、熱を発する |
デュレント・ガス | Dulent gas | CCRは純酸素を使うが、それを呼吸に適したガスとして薄めるための希釈ガスの事を指す。 Air Dulent というと希釈ガスに空気を使い, 他にTrimixなどを使用して大深度に向かうこともある。 |
ベストミックス | Best mix | 潜水深度に応じて減圧時間を最短にし、かつ酸素中毒を防ぐ最適の酸素濃度(配合)を指して言う。 |
ADV | Auto Dulent Valve | カウンターラングが水圧によって体積が縮小した際、自動で流入するシステム。負圧利用 |
GCS | Gas Connection System | デュレントガスをインボード/アウトボードと切り替えるときにレギュレータにつなげて使用する 切り離しできる接続部のあるホース |
BOV | Bail Out Valve | リブリーザーマウスピースにオープンサーキットのセカンドステージをミックスさせたもの リブリーザーが故障したときにオープンサーキットに切り替える際、咥え換えの必要はない。 |
ハンドセット | Hand set | 酸素分圧を監視するための手元でつかめるゲージ。 |
HUD | Head Up Display | 酸素分圧を常時監視するため、眼前(ブリージングホースもしくはマウスピース部)などに 設置した表示機器。主にLEDの色や点滅で酸素分圧を示すようなもの。 |
mCCR | mCCR | 機械式のCCR |
eCCR | eCCR | 電子制御式のCCR |
バックマウント・カウンターラング | Backmount counter lung | カウンターラングが背中のほうに配置されている形式 フロントサイドに比べて前面がすっきりし、極狭環境で胸をするなどでの故障を避けることができる。 |
リブリーザー・ダイバーとなるための10ヶ条
1 | 自己満足せず、自惚れず、謙虚であること |
2 | 注意散漫に陥らないこと、集中すること。 |
3 | 規律あるダイバーであること |
4 | 考えるダイバーであること。 |
5 | 常にPO2(酸素分圧)を把握すること。 |
6 | ケチるな。 |
7 | CCRをメイン機材とすること。 |
8 | 機材は故障するものと認識し、そうなった時の対処法を講じておくこと。 |
9 | 講習で紹介されたトラブルはいつか必ず実際に起こりうることと認識し対処法を講じておくこと。 |
10 | 一つでもトラブルを抱えたままダイビングを開始しないこと。 |